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☆この人なくして明治維新は成功しなかった

 花 神」 上中下巻     
    著 者:司馬遼太郎         
   整理番号:E-20           
      ジャンル:人  伝
     出版社:新潮文庫      
      読んだ時:平成29年 78才      
          
          


 内容・感想:
この物語は、江戸時代末期から明治10年までを生きた、
村田蔵六を描いた物語です。
村田蔵六とは、後の名「大村益次郎」のことです。
あの動乱の時、このように生きた男も居たんだなぁ~と、
新発見した気持ちです。


それにつけても、司馬先生の資料探索の素晴らしさには
恐れ入ります。
行中あちこちに、散り嵌められた史実の数々、
こんな葛藤の末、明治維新は達成されたんだなぁと、
思いました。


片田舎の村医者の家に生れた蔵六が、浪花の適塾の
緒方洪庵先生に学び、オランダ語の日本に於ける
第一人者になり、やがて生藩の長州藩に微禄ながら入り込み、
オランダ語を基に兵法を学び、且つ教えて、遂には倒幕の
総隊長になったのだから、凄いと思いませんか。


彼の潜在する能力を引き出したのは、当時実質的に
長州藩を動かしていた桂小五郎=木戸孝允(きどたかよし)です。
勿論、蔵六には軍を束ねる能力はあったと思うが、
桂によっておだて上げられ、そして花と散らされた面も
ありと思いました。


桂小五郎は、藩内の過激攘夷藩士を抑えきれず、
共に上洛して、京都御所を守る薩摩藩・会津藩と、
蛤御門で衝突し、敗走しましたが、九死に一生を得て、
しばらく身を隠した後、長州に戻ることが出来ました。
そのあたりから桂と蔵六の付き合いが本格的になったようです。
(中巻246ページ)


明治維新が、薄氷を踏むような感じながら何とか存続出来たのは、
一に、蔵六の、西洋文明の技術を先取りした兵器の駆使に
あったと言えます。
何かと云うと、「百姓あがりの・・・」と言われながらも、
ガンとして、信念を持って己の信じる方針を推し進めた、
その実行力には、我々は学ぶ所が多いです。


そして、明治政府の皆から認められてきた蔵六でしたが、
一方で彼を面白くなく思う輩も多かったようです。
そんな右翼的な無頼漢の凶刃に、アラフォーの若さで
倒されてしまいました。
何とも、同情に耐えない気持ちがしてなりません。


蔵六が、とても有望視して可愛がってた青年がいました。
その名は、西園寺公望です。
西園寺は明治維新の年、二十歳でした。
蔵六が襲われた夜、西園寺も一緒に呑もうと誘われていました。
それが一寸した気の紛れで、彼だけは行かなかったのですが、
当夜同席してた門弟達二人は命を落とす事になりました。


それは兎も角、西園寺は昭和15年に91歳で亡くなるまで、
日本政府の重鎮として活躍したのですから、
蔵六の見立ては大したものです。


西園寺と言えば、昭和初めの、世界的大恐慌の時、
当時野党だった浜口雄幸を後継内閣の首班指名の奏請を、
元老として決断した事が思い出されます。
浜口は、指名した井上蔵相と共に「金本位制」を断固実行
したので有名です。(立夫文庫E-21男子の本懐参照)


題名の「花神」とはいかなる意味でしょうか?
おとぎ話の花咲爺さんみたいな意味が、中国では「花神」
と云うのだそうです。
蔵六が次々と倒幕軍を進めていく様が、花咲爺さんに似た
印象があったので、司馬先生がそう思ったのでしょう。


いやぁ、分厚い文庫本、上中下巻、とても読み出が
ありましたが、とても興味深くスラスラと読めました。