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☆ 若き日を謳歌した黄門様

「光圀伝 上下巻」
著者:冲方 丁(うぶかたとう)
整理番号:E-19           
ジャンル:人  伝
出版社:角川文庫    
読んだ時:平成27年 77才         
          


 内容・感想:
水戸黄門様として有名な光圀候は、白いお髭のお爺さん
と言う印象ですが、彼にも湧き上がる体力を爆発させるような、
青春があったのです。
若いころ、江戸の水戸藩の藩邸で過ごしていた彼は、
お金と自由があった訳で、盛り場の傾奇者(かぶきもの)として、
かなり自由奔放に過すことが出来たようです。
しかしながら、大家の御曹司として、あたら若さを
謳歌してばかりいたのではないのが、
そん所そこらのお坊ちゃまとは違うところです。


思えば、わが国に儒教思想が無くなってから永く経ちますが、
幼名を子龍(しりょう)と呼ばれた頃から光國は
「義」を重んずる人でした。
父親の頼房は、長男の竹丸よりも次男の子龍を世子として
徹底的に厳しく育てますが、子龍は成長するにつれて、
兄をさし置いて自分が世子と成る事に、不義を感じて来ます。
そしてついに、父親の死後、長兄頼重の子を
懇願して養子に貰い受け、水戸藩の次期世子とします。
当時、光國のことを「義の人」として、
世間から一目置かれていたそうです。


孔子を祖とする儒教思想は、かっての帝国日本が
政略として儒教思想を取り入れたため、
戦後マッカーサーによって禁じられましたが、
今の日本は欧米化が朱の如く浸透してしまい、
本来の儒教思想の必要性をとても感じます。


毎日のようにメディアが報じる、殺人事件。
中でも尊属殺人が平気で行われる時代です。
以前は、親からどんなに、どやされても決して
手を上げるような子供はありませんでした。
嘆かわしい限りです。


物語は伏線として、大変な者を死なせた事を、
光圀は何度も何度も繰り返し語っています。
一体全体誰を殺めたのでしょうか。
そして、いかなる理由からでしょうか。
それも、缺盆(けつぼん)に刃を突き刺す方法で・・・・

裸になって鏡で、ご自分の胸の上部を見て下さい。
首との境の両側の鎖骨の上に窪んだところがあります。
そこが缺盆です。

この缺盆を刺すと、スルスルと肺から胃にまで貫き易く、
一気に血が肺を満たして、瞬時の苦痛で死に至らしめる
ことが出来るそうであります。
クワバラ、クワバラ・・・


平成27年現在、著者の冲方丁君は38歳ですが、
学生時代から文士としての頭角を現した英才です。  
読者の目を放させない魅力的なタッチは、資料を良く
研究している事もあって、とても素晴らしいと思います。
尚、「光國」は時の将軍家光より拝した名であり、
「光圀」は老後隠居用に本人が捻り出した漢字です。
くにの中の造りは、八方(はっぽう)を表しております。