立夫文庫のブログ

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☆地味だけど凄い、ノーベル賞作家。

題名:あいまいな日本の私           
            整理番号:E-14
            ジャンル:人伝         
            著者:大江健三郎
            出版社:岩波新書
内容・感想:
昨年(AC-1994)ノーベル文学賞に輝いた時の、
ストックホルムに於ける彼の記念講演の演題
「あいまいな日本の私」・・・実は彼のことに接したのは、
この一冊が初めてでした。
第一印象として、なんと細やかな理屈を展開する人で
あることか・・と云うこと。
しかしさらに読んでいくうち、物事を見る目がなんと素直な、
なんと実直な人なのだろうと感じてきた事でした。


「癒される者」の中で、--文明は今、我々生きてる
現代人だけの所有物じゃない。
我々は単に保管者なのである。---と云うのがあります。
今、丁度戦後五十年ということで、アメリカでエノラゲイを
展示したりしてイベントが行われていますが、
それに広島の被爆の惨状を展示するか、しないかで、
退役軍人会のプレッシャーがあり、結局原爆投下は
戦争終結のために己むを得なかったというイメージに
纏められたようです。
(注釈:エノラゲイ号は広島に原爆を投下したB-29爆撃機)


一方、ノーモア広島の平和主義者達は、毒ガスよりもはるかに
酷い殺し方をしておいて自分らのやったことを正当化しやがって、
神に顔向けできんのかヨー、この悪魔めらが・・・
と云う言い分があります。
まあ、双方に言い分はそれぞれあろうけれども、
当時お互いの考えの中心に、文頭で書かれたような、
文明的に大きい規模で考えていた人が、果たしていたでしょうか、
と言うのであります。
なんと大きな視点に立った考え方だと思いませんか。


核兵器を凍結しようと云う世界的トレンドの中、
フランスはフィジー諸島で核実験を繰り返して、
多くのひんしゅくをかっている現実があります。
そんなに核実験やりたいのなら、パリ郊外でやったら
いいジャンと言いたい。
地球環境が、最近のめざましい文明の発展の中で、
急速に悪化しています。
このかけがえのない地球を、神が払拭したもうその時まで、
徒に私利私欲のために汚してしまうことなく、
次々の世代に譲っていきたいものです。


「家族のきずなの両義性」の中で、彼の愛媛県の片田舎における、
幼少の頃のエピソード
・・・彼は小さい頃から本を読むのがとても好きな子でした。
村の公民館の小さな図書室にしょっちゅう通っているうち、
好きなハックルベリー始め全ての本を読み尽くしてしまいました。

たいへんな満足感と共に家に帰ってきて、得意になって
お母さんに云いました。
“お母さん 僕は図書館の本を全部読んでしまいました。”
少年はお母さんから、“よかったネ”・・・と褒めてもらえる
と思っていました。

ところが賢母は、“あ、そう”と言うと、
彼を伴ってその図書室に行き、アットランダムに一冊を取り出し、
任意のページを開いて声を出して読み始めるのです。
そして途中で「はい、この続きはどうなるの?」と云うのです。

健三郎がモジモジして、答えられないでいると、
お母さんは「そんな、頭に残らないような読み方をして
何になるの」と言うわけです。

しかし、彼も偉かった。
頭の中でピカッと100W電球が光って、
それからの読書に対する態度が一変したそうです。