立夫文庫のブログ

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☆ ヒーローのニコライ・ヘルは、とても緻密な殺し屋。 物語は1972年のミュンヘンオリンピックの史実のイスラエル選手団の殺害を起因として展開していきます

題名:シ ブ ミ 上下巻
整理番号:D-26       
ジャンル:外国文学
読み終えた時:令和 3年 8月 83才   
著者:覆面作家トレヴェニアン(ロドニー・ウィリアム・ウィテカー)
訳者: 菊池 光
出版社:早川書房


内容・感想:
覆面作家トレヴェニアンは2005年に亡くなっていますが、
日本文化の良き理解者であったようです。
読んでいて分かります。


今、キアヌ・リーブス主演のジョン・ウィックシリーズが第4作目に
入り、人気になってますが、この殺し屋シリーズはこのトレヴェニアンの
「シブミ」にヒントを得ているのじゃないかと思います。
トレヴェニアンが「シブミ」をリリースしたのは1979年です。


ストーリーは冒頭、ローマ国際空港テロの模様を映写室で
チェックする場面から始まります。
実行犯のダリル・スター達と巨大組織マザーカンパニーの
幹部であるJOダイアモンド達が映写を観ている場面です。


そもそも、史実である1972年のドイツミュンヘンオリンピックの
テロ事件を遠因として、その報復をするという設定から物語は始まります。
この実際に起こったミュンヘン事件はパレスチナ人の「黒い九月」なる一団が、
間もなく始まるオリンピックのために待機していたイスラエル選手団の
宿舎に押し入り、イスラエル選手9人を人質にしてエジプトへ
脱出要求をしますが、空港で銃撃戦となり人質と共にヘリコプターが
爆破されたものです。
因みにオリンピックは、何と!!! 予定通り始めたと云うからビックリです。
そしてそれから約50年経った丁度今、東京オリンピックです。


扨て、冒頭に戻って、ローマ空港テロ事件はユダヤ人三人がミュンヘンで
死んだイスラエル選手達の報復のためロンドン空港でのテロを計画。
彼らがトランシットでローマ空港に降り立った際を狙って、テロを事前に
察知したダイアモンドがCIAを指揮して抹殺すると云うものでした。
しかし一人肝心の人間を抹殺し損なっていた事を、ダイアモンドが
気付きます。


その一人と云うのはユダヤ人報復グループ首謀者アサ・スターン(既に死亡)の
姪のハンナです。
ハンナは命からがら脱出し、助けを求めたのがこの物語の一方の主役である
ニコライ・ヘルです。


すごく巧みに組み立てられた物語の展開に、次第に熱読に心がのめり込んで
いく自分が分かります。
唯、著者の拘りがあって、幾つかの事柄を集中的に掘り下げて
描いているのが、少々執っこい感じです。
一つにはセックスの分析であり、又一つにはケイビングの件です。
ケイビング(洞窟探検)の項は興味がなければ飛ばして読めばいいです。


そして一番の拘りは、日本文化の描写です。
この本の題字になっている、彼の言う「しぶみ」です。
シブミに関しては、文中あちこちに出てますが、上巻125頁に、
ヒーローのニコライ・ヘルが恩義に感じ、かつリスペクトしている岸川将軍
の感化に依る項に詳しく書かれてます。
「シブミ」とは「わび」「さび」などと共に古き良き日本文化を象徴する
意味合いの言葉です。