立夫文庫のブログ

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☆まだまだ続く狐狸庵先生シリーズ。捕虜を生体解剖するシーンは凄い迫力です。

           題名: 海と毒薬
     整理番号:B-11
            ジャンル:日本文学        
            著者:遠藤 周作
            出版社:講談社文庫


内容・感想: 
限りなく続く大海原、
そんな中に小量の毒薬が溶け入っても
ネグレクトされてしまうでしょう。


アメリカの格言に
〈小さな小川の流れが次々と合流して、
大河をなして威張っていたら、やがて海に流れ込んで
消えてしまった・・・〉と言うのがあります。


まあ、日本の格言に置き換えればさしずめ、
井の中のカワズ 大海を知らずといったところでしょうが、
今やそんなことも言ってられないほど、現代は環境破壊が、
嘆かわしいことに進んでしまっております。
母なる海も、厄介者の子たる人間のやらかすことには
手を灼いております。


前置きが長くなりましたが、この本はものすごい猟奇的な
内容に満ちてます。
孤狸庵先生三十四才の作です。


 この年あたりから作品「おばかさん」を皮切りに
大衆文学的作品が多く出て来ますが、
それらに共通して底流している訴えは、
現代人の自己中心的な生き方への問題提起だと思います。


それと、もう一つ、Sadisticな面です。
彼はわざわざサドの研究のために、
この時期フランスに行っている程です。


ドライな割りきりかたの戸田君・・・、 
対照的にウェットな性質ながら、温かい人間性に
溢れる勝呂君。


二人は戦時中の医者という立場で、
軍部の命により米軍捕虜の生体解剖を断行するのです。
医学知識に造詣の深い狐狸庵先生は、
まるで目のあたりに見せられているごときタッチで
描写される手術シーンは極度の戦慄さえおぼえます。