立夫文庫のブログ

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☆ホンワカとした気分に浸りたい時に読むと宜しいかと・・・

   題  名:薔薇と苧環 (ばらとおだまき)
 整理番号:B-56  
            ジャンル:日本文学
      読んだ時:平成28年 77才   
            著  者:紺野敏武
            出 版 社:京成社(自費出版)


 内容・感想:
古き、良き東京の町、その懐かしい情景が次々と綴られ、
丁度我々の年代(昭和始め頃の生まれ)の人間にとって、
とても興味をそそられます。


それらは、時代の変遷とともに、徐々に破壊と建設が
繰り返されてきておる訳で、残念ですけど、
しょうがない事でしょう。


まあ、江戸時代の人が明治の圧倒的な文明開花を観て、
恐らく大変なカルチャーショックを感じたでしょうが、
当時の人は我々以上に、「これも時代の流れか・・・」
と思ったことでしょう。


この小説は、先ずは売れない小説だと思います。
売れる小説は、スリルとサスペンスに溢れ、
読者に強烈なインパクトを与えるものが、
昨今の人気でしょうから。


しかしながらこの著者は、恐らくそんなトレンドには
目もくれず、スローなタッチの中にアイデンティティーを
求めているように思います。


会話の外に、心で思っていることを、ツラツラと書く
・・・云わばツイート表現を多く取り入れているのは、
その時々の心理状態を表すのに、効果をあげていると思います。


10年程前まで浜町に事務所を構えていた私は、
隣の住人が森義利さんと云う芸術家でした。
彼は情緒あふれる下町の光景を、その素晴らしい
カッパ刷り画に、いっぱい残していましたが、
やはり彼も、消えていく古き良きものを、とても残念がって
いたものです。


扨て、物語は理想的な若き青年と、理想的な容姿端麗な淑女の
出会いから始まり、だんだんと恋愛に発展していくのですが、
そのあちこちに、先述の懐かしい情景が織り込まれております。 


そして更に、音楽、美術、etc.の分野に及ぶ、
作者の幅の広い博学ぶりが、彩られていて、
良い勉強になります。


題名の「薔薇と苧環」は、ヒーローの相手の女性姉妹を
花に例えているものですが、輝かしい薔薇はともかくとして、
ひっそりとした苧環は一寸。。。。可哀想過ぎます。


当時の映画で云うなら、池部良みたいなモテモテの男に
振られた苧環が、越生の野辺で二人で食べようと作って
きたおにぎりをパクつきながら、一人涙を流している光景は、
読んでて思わず泣けてきます。