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☆イスラム国の本拠モスル陥落の昨今、この書で基礎知識を!

題  名:アメリカはイスラム国に勝てない
            整理番号:G-07             
            ジャンル:その他
       読んだ時:平成28年 77才  
            著  者:宮田 律
            出 版 社:PHP新書


 内容・感想:
地球の裏側で、ドンパチと激しい戦争が繰り返されているが、
日本は平和そのもので、そんな事は単なるニュースとして
見ているだけで、実感がわかない人が多いと思う。
現実的な問題としては、若者がイスラム国に参加すべく
旅立ったと云う事とか、取材に行って捕らえられて、
首を刎ねられた事ぐらいだろう。


これで、日本もアメリカとの安保条約に基づき、
集団的自衛権の行使でアメリカの尻馬に乗って色々動きが出て来て、
アメリカと同一視されて、日本国内にもテロ事件でも
起きるようになると、俄然緊迫感が出てくると思う。


16世紀、日本は麻の如く乱れ、50年以上に亘り戦乱の世が続いた。
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の時代である。
今の中東を見ていると、400年遅れで同じようなことが
行われているような気がしてならない。
唯、違う点は、宗教的な事が絡んでいる点と、
アメリカ、ロシア、EUなど先進国がオチョッカイを出してる点だ。


この本は去年、即ち2015年の始めの出版だから、
イランはまだアメリカとコンプライアンスがとれる前の段階だが、
現在はイスラム国包囲網の有力なメンバーとしてイランも
協力的になって来ているのは好ましい事だ。


さて、本書のテーマ「アメリカはイスラム国に勝てるか」
と言う事については、否である。
オバマ現政権は柔和過ぎる。
同時に幾つかのジレンマに陥っている。


例えば、シリアのアサド現政権を倒すべく戦っている
「自由シリア軍」にアメリカはバックアップしているが、
その側面から、「自由シリア軍」は「イスラム国」に
攻められて、弱体である。
過ってのアメリカならフセイン政権を直接倒したように、
アサド政権に立ち向かったかも知れないが、
アメリカ国内の世論、財政事情などから、踏み切れない。


アメリカの次期大統領予備選では、共和党のトランプ氏の
過激発言に人気が集まっている。
また、強いアメリカの出番を望む民衆の気持ちも
解らないでもない。


「イスラム国」をなかなか駆逐できない原因のひとつは、
アメリカが云々ではない。
自由主義諸国に内在する所得格差から来る、
貧困若年層のはけ口に、「イスラム国」はなっている。
そこには、イスラム教の要素は乏しく、端的に云えば、
エネルギーを発散させる環境と、食っていける
安定感があるからである。
「イスラム国」の占領地区には、かなり豊かな石油資源がある。


本書の著者が最も言いたい事・・・・。
その前に一つだけ注釈しておきたい字句がある。
「軍産複合体」とは、アメリカにおける、
軍事産業のプレッシャーグループである。
オバマもそうだが、米国大統領は「軍産複合体」と
「キリスト教右派」と云うプレッシャーグループには
手を焼いている。


本書216ページを引用する。
軍産複合体の意向をうけて、他の文明社会や国家に軍事干渉する
米国の姿勢は、特にイスラム圏に対しては、反米感情を煽り、
先進国へのテロを駆り立てる。
そして若いムスリム達を過激運動へと誘う。
翻って、米国の過激派殲滅の行動は、決してテロからの
安全対策にはなってはいないのだ。
逆に、その連鎖で「イスラム国」のような暴力集団を
助長していくのだ。