立夫文庫のブログ

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☆中村勘三郎(18代目)も絶賛の、天切り松。そう、マンガのルパンⅢ世を頭に描いて読むといいです。

    題  名: 「天切り松 闇がたり」一二三四五巻&完全版
            整理番号:B-60       
            ジャンル:日本文学
       読んだ時:平成30年 79才   
            著  者:浅田次郎
            出 版 社:集英社文庫


 内容・感想:
どこの業界にも符牒と言うものはあるものですが、
盗人のそれを色々知ったのはこの本が初めてです。
「タタキ」「ノシ」「モサ」「テカ」「ヤサ」「レツ」
・ ・・etc.
幾つ、分かりますか?
答えは、「強盗」「泥棒」「掏摸」「手下」「家」「仲間」です。


また、「女衒」とか「大籬」の読みと意味はどうですか?
答えは、「ぜげん」「おおまがき」と読み、
「昔、女衒と言う業人があり、吉原の大籬などに
貧しい家庭の娘を売りつけておりました」と云う事。


それから、洒落男のファッションで、「ボルサリーノ」とか
「インパネス」と言うのは如何ですか?
前者はイタリア製の洒落た帽子。
後者は、やはり洒落たオーバーコートのようなもので、
まあ、マントですね。
昔、「二重回し」と称して日本でも着ていました。
そんなこんな、いろいろ勉強になります。


作者の浅田先生は、当年(平成30年)66才の戦後派ですが、
よくまあ戦時中のことも、まるで体験したかのように
書かれていて、とてもビビッドです。


この物語は「天きり松」と言う、以前盗っ人の一味だった男の
回顧話として書かれていますが、どのお話にも
概ね、歴史上の有名人が登場します。
例えば、森鴎外、山県有朋、次郎長一家の小政、
ハタマタ仕舞にはチャップリンまで来日登場します。


我が家の近くに動坂と云う処がありますが、
明治の頃ここに掏摸の大親分「仕立屋銀次」が
住んでいました。
その一の子分が「目細の安吉」と云って、もう大変な
その道の天才でしたそうな。
そしてその安吉親分に拾われたのが、この本の語り部の
天きり松と言うわけです。


安吉親分一家には、天きり松が拾われた時、
とても優秀な四人の子分がいました。
先ずは「説教寅」。
出刃を持って押し込むと、そこの主の枕元に
出刃をおっ立てて、トウトウとお説教をぶってから
頂いて帰る。
彼は過っての日露戦争二百三高地の勇士です。


続くは「黄不動の栄治」。
これがカッコいい長身で、普段はボルサリーノを
粋に被ったところなんぞは、さぞ女性にモテモテと
言う感じですが、いざ仕事となると、黒股引に
黒木綿の筒袖、博多の平ぐけを貝の口にキリリと
締めて、月夜の晩にお屋敷の屋根にスラリと立つ。
音もなく瓦を外し、野地板を切って侵入すると云う
天切の業師でありました。


次が紅一点の「玄の前の お紺姉さん」
子供の頃、安吉親分に拾われ、掏摸のハウツーを
しっかり教え込まれた、若くて着物が良く似合う
美人さん。
しかし、気はめっぽう強く、小股の切れ上がった
姉御です。


最後は「書生常」。
書生の常次郎。
帝大生を装い、変装自在のペテン師。
これがまた、痛快なほど金持ちを騙して、お金を
巻き上げます。


と云ったスタッフで、お話は面白可笑しく進行します。
しかし、彼らは義賊でした。
富裕層からお金を頂戴して、必要経費を差し引いた残りは
困ってる人へ、そっと上げるのでした。