立夫文庫のブログ

「立夫文庫」にようこそ! どうぞごゆっくりご覧下さい。
当ブログを、楽しく、為になる読書のナビゲーターとして、ご活用下さい。

☆大実業家マードックと云えば、まだ記憶に残っている方もおいででしょう。

    題名:メディア買収の野望 上下巻
   整理番号:D-08            
            ジャンル:外国文学
       読んだ時:平成 9年 58才  
            著者:ジェフリー・アーチャー
            出版社:新潮文庫


内容・感想:
これは、セミ・ドキュメンタリー小説です。
相競う二大ヒーローの内の一人、文中のタウンゼンドは、
今でも世界の情報社を買いあさる実在のメディア王
マードックです。


筋書きの展開は、アームストロンク゛とタウンゼンドと
一章づつ交互に書き進められ、二人が初めて交錯するのは
下巻の38ページ、サヴォイグリルのアルコーヴ席で
偶然隣席同士になった時です。


徹頭徹尾、悪の塊みたいなディック(アームストロングの愛称)は、
キース(タウンゼンドのファーストネーム)達の
ウェストライディング出版グループ買収話を隣席で盗み聴きして、
まんまと横取りに成功してしまいます。


怒ったのはキースです。
その仕返しに、フリートストリートの花形誌グローヴの
買収を進めているディックの情報をキャッチしたキースは、
クイーンエリザベスⅡ世号で周遊中のグローヴの
オーナーの一人であるマーガレットシャーウッドに
航海途上で接触し、ディックの邪魔に成功します。
 
それからと云うもの、二人はしのぎを削って
メディア買収競争を展開していきます。
これぞと思う物件は、とことん値段をつり上げて、
結局、得をするのは売り手のオーナーのほうです。
いいように、天秤にかけられていくわけです。


ついに資金に行き詰まり、二人とも絶対絶命の淵に
追いこまれてしまいます。
そしてディックは自殺し、キースはほとんどラッキーなことに、
紙一重で融資を受けている諸銀行全ての借金の棚上げに
成功して生き延びます。


第二次世界大戦下のヨーロッパ・・・
ナチスドイツの破竹の侵攻に追いまくられる
ルブジ・ホッホ(アームストロングのユダヤ名)は、
何度も死ぬ目に遭いながらもチェコの片田舎に生まれた
ルブジは、両親と離れたアカデミーでドイツ軍の接近に
遭います。


国境で殺到するユダヤ難民の列を、こす辛く突破して
ハンガリーに入り、ブダペストで職にありついたのも束の間、
またも侵攻してきたドイツ軍に捕えられてしまいます。


これでおわりと思いきや、絞死刑場に向かうトラックの上から
脱走し、深手を負いながら、ラッキーなことに
ジプシーの一行に助けられ介抱されます。


ジプシーと共にユーゴに抜け、美しいジプシー娘との
ロマンスで童貞を捧げるくだりなどもあってから、
一行と惜別し一人、険しいディナルアルプス越えを敢行します。


美しいアドリア海の港、ドゥブロヴニクに
たどり着いたルブジは、行き先も分かんないまま
荷役中の輸送船に穀物で窒息しそうになりながらもぐり込みます。


延々たる航海の末、ドイツ領土だったらどうしようと
ドキドキしながら這上がってみたら、イングランドは
リヴァプールだったと云うんだからよくよくついてます。


これからがルブジの反撃開始となります。
志願して入軍し、折しも連合軍の反撃作戦の波に乗って、
ノルマンディー上陸の先陣をきり、大軍功を果して、
ベルリン陥落の時には大尉にまで昇格していました。


そして占領軍統治下のベルリンで、占領軍の権力を
最大限に活用して基盤を創りロンドンに帰ります。
そしてベルリンで得た利権を基に、
アームストロング・コミニケーションズは
揺るぎない礎をなすのであります。


このルブジホッホの数奇な運命の漂いは、
映画にすれば十分ベストヒットになると思います。
・ ・・しかしながらこれだけ生きる事に対して
強かった男が、なんともろく最後を遂げるものでしょうか
・・・蓋し、これも運命なのでありましょう。