立夫文庫のブログ

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☆プア&リッチ生まれの子の物語。

            題名:ケインとアベル 上下巻
            整理番号:D-09                   
            ジャンル:外国文学
      読んだ時:平成 9年 59才  
            著者:ジェフリーアーチャー
            出版社:新潮文庫


内容・感想:
D-08に載っている「メディア買収の野望」と
筋書きも組立も似ています。
と云うより、このケインとアベルのほうが
先に書いたものなので、逆です。


一方の少年は貧しい生まれで、苦労して生死の境を
さまよいながら出世していきます。
他方の少年はリッチな家庭に生まれ、大変な秀才で、
世の中に打って出て行きます。
やがて二人の男には出会いがあり、お互いを意識し、
そして猛烈に反目しあいます。


更に、物語の構成も交互に断片的に書き進められて行きます。
舞台は世界を股に掛けた展開であり、時代も第二次世界大戦の
ヨーロッパの民族的悲劇が、切々と訴えられております。


しかしながら私は別にこれらのことが駄目だと云ってる
のではありません。
ジェフリーもきっと、佳いテクニックだと意識して
踏襲してるのだと思います。
とにかく、ジェフリーの作品と云うのは、
読者を引きずり込んで、夢中に読みふけらせる魅力に
溢れてます。


アベルはウィリアムが死んだあと、ウィリアムの
自分に対する善意を知ってハッピーエンドとなりますが、
ウィリアムが生前信託をたてに、真実を相手に
明かさなかった点に何か無理を感じます。


も一つ、戦場に志願して出かけて行きライバルの
お互いを知らぬまま、助け、助けられる場面がありますが、
このエピソードがついにお互い知らぬまま終わっているのは
しりきれとんぼの氣がします。
私は寧ろ、この戦場でのことが後からジワッとお互いに知れて、
和解して行くと云うのが良かったと思います。


最後に題名について、・・・
“ケインとアベル”と云う題名は、よく考えると
ケインはファミリーネイムなのにアベルはファーストネームで
あることに気付きます。
では何故そのようなチグハグな取り合わせにしたのでしょうか。
作者の意図はおそらく、旧約聖書の始めに登場する
アダムとイヴ、の子である“カインとアベル”に
なぞらえているんじゃないかと思います。
兄カインは、アベルにライバル意識を持つあまり、
弟を殺してしまうのですが、競い合う二人と云う意味で、
この題名によってイメージさせようとしているものと思われます。