立夫文庫のブログ

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☆ユウタナジィ=安楽死の是非や如何に。鴎外の比喩に満ちた小説達です。

題 名:山椒大夫・高瀬舟・阿部一族
    整理番号:B-25          
            ジャンル:日本文学
      読んだ時:平成13年 63才   
            著 者:森 鴎外
            出版社:角川文庫


 内容・感想:
明治の文豪鴎外は、軍医として陸軍の軍医局長の要職にまで
補せられながら、一方では執筆活動を旺盛にやっていたのですから、
そのタフさ加減には恐れいります。


三十歳の時、観潮楼を建て、以後生涯ここに住みました。 
現在の文京区の鴎外図書館の場所です。


「魚玄機」の中で、114頁・・・
趙痩(しょうそう)と言わんよりは、
むしろ楊肥(ようひ)と言うべき女・・・
と言う項がありますが、
趙は漢の時代の趙飛燕という痩せ型の美人です。
楊は唐のお馴染みの楊貴妃で肉体美の美人です。


122頁・・・玄機は同じ道を歩む采蘋(さいひん)と対食す。
・・・これはどういう意味かと云うと、
はやい話レスビアンの関係ということです。
これら二つの言葉は、ちょっと洒落た日用語として
利用価値があります。


曰く、「うちのかみさんは最近、趙痩というより楊肥だよ」とか、
「A子とB子はどうも対食みたい」・・などなど。


「高瀬舟縁起」174頁・・・
ユウタナジイ=安楽死について。
古来、一般道徳では、助からない病の床で
苦しんでいる人がいても、苦しませたままに
しておけと言う。


しかし医学社会では、楽に死なせて、その苦しみから
開放してやろうという安楽死論が一方である訳です。
この高瀬舟は丁度、そういうテーマを取り上げているのが、
面白いと鴎外は言ってます。


小生は13年前、親父が脳梗塞で長患いの入院生活をしている時、
今でも悲しく思い出す、或る事があります。
親父は、病床で空ろな目をして、一生懸命息をしていました。
もう既に、意識も絶えだえとなっていたある日、
院長先生が我々兄弟と母を別室に呼びました。


これからの延命処置として、喉に穴をあけて直接呼吸を助けたり、
食物を胃に流し込む方法があると言います。 
どうしますかと聞かれて、僕は家族を代表して、
「やめにして下さい」と言いました。


そして悲しみがグーッと、こみ上げてきて、
目の前が涙でぼやけてしまいました。
俺が親父に引導を渡したと云うことです。


でもこの苦しみを長引かせるのが、果たして正解なのか、・・・
親父がきちんと意思表示できるのなら、
はやく死なせてくれと言ってるんじゃないか・・・
と思いました。


院長は言う、「傍で見ているほど本人は苦しみを
感じてないのですよ。」  
脳に十分酸素がいかないと朦朧としているからだと言いました。


それからしばらくして、ある日病院から危篤の電話があり、
跳んで行きました。
枕辺で私と成子が見守る中、荒い呼吸が
糸を引くように細くなり、やがて深く一回息をして終わりました。
確かに、あまり苦しまなかったように思えました。
これが、私が、人間の今わの際を看取った最初でありました。