題名：旧約聖書を知っていますか
　　　　整理番号：Ｃ－０８             　　 
            ジャンル：歴史
　    　 読んだ時：平成 ８年 ５８才　  
            著者：阿刀田　高
            出版社：新潮文庫

内容・感想：
先ず、神ありき。　
ある時、神は一念発起してこんな物を
造ってみようと思いました。

先ず第一日目には天と地を創造しました。
第二日目は空を・・・
第三日目は陸と海、草と木を・・・
第四日目太陽と月と星を造りました・・・

第五日目水に棲む生物と、空を飛ぶ鳥を・・・
そして第六日目には地を這う獣と家畜を
そして最後に人間の男と女を造ったところで、
ああ疲れたと云って第七日目に
神はお休みになりました。
これが安息の日となり、七曜暦の起源となりしかや。

かくして、この世に生まれ出でたアダムとイヴは、
皆さんご存じのお話を経て、カインとアベルを
造りました。

アベルはカインに殺され途絶えますが、
史上初の殺人を侵したカインを神は厳しく制裁し、
エデンの東へ永遠の放浪の民として追放します。

次に生まれたのがセトで、この子孫が
エノシュ、ケナン、マハラルエル・・・と続き、
やがてノアとなります。

この頃には人口もかなり増加しておりまして、
神の目から見て堕落現象が目に余って参りました。
この辺でひとつ総入れ替えしようというわけで、
神はまるで消しゴムで消すように
ノア以外の全ての人間をこの世から消し去られたのです。

そこで一句・・・人は皆　泡沫なりと　神の声
        注：泡沫＝「うたかた」と読む

かくしてエッセンシャルピープルであるノア一族は
その子セム、ハム、ヤフェトから各地に広がって
行きました。

セム系列から事実上の南ユダ王国の有史第一人者
アブラハムが誕生します。

“アイヤーヨッ！”
・・・この掛け声は一体何の事でしょう。
アブラハム、イサク、ヤコブ、ヨセフの頭を
とっているのでした。

以下歴史時代に入ると、詳細な家系図が続いていきます。
特にヤコブは子沢山で、その子達はユダヤ人の十二部族を
創っていきます。

そしてヨセフ系列からはモーゼ、ジョシュア、サムソン
・・・と続いていきます。

物語を辿っていくと、いくら書いても切がない
感じなので、要点を二つだけ書いておきます。
一つは、実存主義と本質主義についてです。

中世哲学史上、多大の影響力を持ったこの理論は、
フランスのサルトルによって唱えられたものです。
当時のフランスと云えば、圧倒的にキリスト教徒の
国だったので、ガリレオの地道説並に衝撃的で
あったと思われます。

サルトルは「人間については、実存が本質に先立つ」
と言いました。
どういうことか砕いて云いますと、人間は、例えば
自動車のように我々の足としてその本質が規定され、
造られた物ではなく、そもそもこの世に実存して
いたのである、と云うことです。

冒頭に記したように、人間は神が造り賜うた物なのだから、
そして人間はかくあれかしと、神が規定したのだから、
旧約聖書に基ずくユダヤ教はもちろんのこと、
新約聖書を因り処としているキリスト教も根底から
立場がなくなってしまうことになります。

二つ目は、今なおイスラエルとアラブ民族の間に続く、
中東紛争はいかなる原点から発しているかと云うこと。
我々地球の遥か彼方の日本から見ていると、
なにをいがみ合ってるんだろうと思いますが、
これには約二千年前に遡る、歴史的と云うか、
執念深いユダヤ人の旧約聖書に基ずく論拠があります。

ユダヤの血をひくソロモン王がイスラエルの地に
一大安定帝国を築いたのは、今から約三千年前の
ことですが、その後　民族内部のいがみ合いで
南北に分裂し、北大國はアッシリアに滅ぼされ、
南大國はバビロニアに侵略されます。

これが世に云うバビロン捕囚で有名なように、
ユダヤ大國崩壊の第一歩となります。

その後一時期盛り返しは有りますが、結局はＡＣ７０年、
完全に彼らは母国を失ってしまい、そしてユダヤ民族は
世界に散らばってしまうのです。

聖地イスラエルは、主としてアラブ民族によって
治められてきたものが、およそ二千年を経た１９４８年、
ユダヤ人支配の下に、イスラエル國が誕生致しました。

イスラエルを占拠したユダヤ人が云うには、
この地は我々のものである。
その証拠は聖書に書いてある・・・と云う訳です。

二千年前の事を持ち出されて領土の主張をされたのでは、
たまったもんじゃないとアラブ人は云うわけです。

どっちかと云うとアラブのほうが常識的と
思いますがね・・・。