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☆古えのギリシャの美人たちを、瞼に想像しながらお読みあれ

         題名:ギリシャ神話の女たち   
             整理番号:C-06               
            ジャンル:歴史
      読んだ時:平成7年   57才  
            著者:楠見千鶴子
            出版社:筑摩書房


内容・感想:
僕はギリシャ神話に関する書物を読む機会に接するたびに、
その魅力に引き込まれていく気がします。
ギリシャ神話は日本の古事記のように、口伝で伝えられて来た事を
集約したものですが、しかし古さがちがいます。
そして残酷です。


僕と同い年の、ちょっとチャーミングな楠見女史も、
ギリシャ神話の魅力に取り付かれた一人であり、
センチメンタリストの一人です。
それと、彼女はとても学があるサカイ、難しい漢字を文中随所に
登用させハルもんで、じっくり腰落ち着けて読まなアカンデェ。


ギリシャの昔はエーゲ海がひとつの世界でしたから、
そこを乗り切ってトロイアに殴り込みをかけることなんぞは、
ものすごく大変な事件でした。
原文はとても難解でなかなか読み下せませんが、
この書はその中から七人のヒロインを選んで、
現代にグッと引き寄せた形で登場させているので面白く読めます。


                    ◇◆ 粗筋解説◆◇


                  女                  男
①  イオカステ &   オイディプス   
      オイディプスとは腫れた足の意。・・・つまりクルブシのこと。
  神託により我が子に因って、災いが起こると知った両親は
  オイディプスの踝に穴をあけ止め金を刺し通した上、捨てます。
      しかし助けられ成長したオイディプスは目に見えぬ糸に操られ、
  父ラーイオスを殺し、母イオカステを妻としてしまう・・・云々。
      ギリシャ神話は残酷極まる物語が多いと同時に、
  神託なる神のお告げが、はばをきかす世の中でした。


②  メーディア &  イアソン     
      黒海の東コルキス國から、戦利品として連れて来られた魔女メーディアは、
  愛するイアソンのために彼女の魔力を使って何度も窮地を救います。
      しかし、イアソンは軽薄にも出世のため、王女グラウケーと
  結婚してしまうのです。
      熱烈な愛が裏切られた時、その反動はものすごいものがありました。
      有名なグラウケーの泉、王女はそこに身を投げることになるのです。


③  パイドラー & ヒッポリュトス
      クレタ島に棲む怪獣ミノタウロスを退治した英雄テーセウスは、
  いき揚々とエーゲ海を凱旋します。
  しかし、成功の折には黒帆を白帆に揚げ替えて帰還する約束を、
  おっちょこちょいな事に、うっかり黒帆のままで帰ったもんで、
  岸壁に迎えに出た父王アイゲウスは悲観して海に身を投げてしまいます。


      そのことから、この海はアイゲウスの海→エーゲの海→エーゲ海と
  呼ばれるようになったのです。
      それにしてもアイゲウスとテーセウスは、父子揃っておっちょこ
  ちょいでした。
 
④  ヘレネー & パリス
      この本に出て来る七人の美女の中でも、段突に美しいヘレネーは、
  トロイアの国からここスパルタへ攻めてきたパリスに見染められ、
  連れ去られます。
      スパルタの財宝と絶世の美女を手にしたパリスは、戦勝気分に
  酔っての帰路、エーゲ海に浮かぶ、とある島に立ち寄り、
  何年もトロイアに帰りませんでした。


      パリス侵攻の折、たまたま留守だったスパルタ国王メネラーオスは、
  帰って みると彼女は居なくなるは金銀財宝はごっそり持ってかれてるはで、
  怒り心頭に 発して同盟国に呼びかけて、トロイア征伐に大軍を繰り出します。


      これが有名な「トロイの木馬」の長期戦です。
      ヘレネーを返せ、いや返さんと、いろいろあった挙げ句、オデュッセウスの
     策略で、ついにトロイアは皆殺しの末路を迎えますが、ヘレネーはメネラーオス
 の 元の鞘に収まると云うのですから美女は得だよねぇ。


⑤  クリュタイムネーストラー &  アガメムノン
      これまた、残酷非道のギリシャのお話です。
      先ほどのお話のヘレネーとは、異父姉になるクリュネーは、
  トロイア戦で勝利を収めて息揚々と凱旋した夫のアガメムノンを
  いきなり殺してしまいます。
      こんな女だからお墓も、ミケーネ城外の谷の最も低い場所に
  共謀者アイギストスと並んでひっそりと造られています。


⑥  アンドロマケー &  ヘクトール
      不屈の女アンドロマケーは、度重なる逆境に遭っても決して
  マケーてはいませんでした。
      トロイア王国の第一王子ヘクトールに嫁ぎ、愛の結晶を得て
  幸福な日々を送れた のも束の間、例の戦争でギリシャに破れ、
  夫も愛児も失ってからは不幸のどん底に突き落されます。


  先ず、ヘクトールとの一騎討ちに勝ち、ヘクトールを戦車に
  くくり付けて引き回したアキレウス、その一子ネオプトレモスの
  妾奴隷にさせられます。
  このネオプトレモス君も親父に負けず残虐な奴で、
  ゼウスの祭壇に逃れる ヘクトールの父トロイア王の首を刎ね、
  アンドロマケーが必死に抱く子をもぎ取って城壁から投げ捨て、
  彼女の義妹の美しいポリュクセネーを親父の鎮魂のためとして
  人身御供にしたりしてしまいます。


      しかしアンドロマケーは領地エーペイロスに連れて行かれた後、
  これほどの 仕打ちを受けたネオプトレモスの子を四人ももうけます。
  そして晩年は、その中の末子ペルガモスに温かく養われて、
  トロイアの南部に ペルガモスが築いた新王国で漸く幸せを掴みます。
  人間、臥薪嘗胆に徹すれば必ず好いことがあると云う事でしょうか。


⑦  ペーネロペイア &  オデゥッセウス
      人妻の鏡のような、貞淑なペーネロペイアはトロイア攻略における
  ギリシャの英雄オデュッセウスの妻でした。
  夫は戦争が終わってもなかなか帰らず、生後間もなかった
  一子テーレマコスも二十歳になっていました。
  その間、彼女の美貌、領土イタカ島の魅力を感じる求婚者が、
  なんと129人。
  泊り込みで王宮に押し掛けて来ては、日夜ペーネロペイアに
  色よい返事を迫ります。


  しかし、彼女は夫の無事を堅く信じて、いろいろ言い訳をして
  時を稼ぎます。
  かって古今亭志ん生が、かみさんを置き去りにして満州に
  行っちゃったのとは少々訳がちがいます。
  まあ、待った甲斐あって無事オデュッセウスは帰って来て、
  めでたし、めでたし。