立夫文庫のブログ

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☆ あなたが一度入院生活を送ると、とても参考になるし、なるほど・・・と思います。

題  名:神様のカルテ
整理番号:B-75        
ジャンル:日本文学
読んだ時:令和3年 82才     
著  者:夏川草介
出 版 社:小学館


 内容・感想:
今から約11年前 (2010年)にこの本は書かれました。
夏川氏当時31歳のデビュー作です。
病院の内部事情が、なるほどなぁ・・・と分かります。
其れもその筈、彼は信州大学医学部の出身です。


主人公の栗原一止は9年目の内科医ですが、身分は未だ大学院生で
薄給に喘ぎながら身をすり減らして大学病院で働いています。
しかも所帯持ちで一子小春ちゃんもいるのです。
安曇野のおんぼろアパート「御嶽荘」に棲み、
日曜日に小春ちゃんと寛いでいる時でも、PHSが鳴れば
病院に駆けつける毎日です。


かくして情熱的に職務を全うしている栗ちゃんこと、一止先生ですが、
ある時入院して来た、若くして膵癌になった美しい女性患者の
二木 (ふたき) さんへの献身的な医療の件には感動させられました。


彼女の家は大きな農家で、ご養子の夫との間に可愛い女の子がいます。
入退院を繰り返す不治の病に苦しむ彼女は、絶対に自宅で
最後を迎えたいと思っていますが、そんな或る日、夫から病院に
緊急電話があり、高熱と極端な低血状態になったと連絡が来ます。


規則で往診出来ないのに敢然と彼女の家に向かう一止先生。
頑として再入院を拒否する彼女を、治療が終われば必ず家に
帰れるようにする約束で説得して病院に戻します。


一定の治療は済みますが、不治の病です。
今度は規則で自宅での受け入れ態勢が万全でないので
退院出来なくなります。


誰しも冷たい感じのする病院ではなく、住み慣れた自宅で
家族に見守られながら最後の時を迎えたいものです。
それは認知症の場合でも同じと思いますが、
ましてや癌の場合はしっかりした考えで自宅を希望している訳です。



一止先生は強い意志と判断で、しかも医療看護体制に盤石を期して
彼女との約束を果たします。


当然ながら上司の偉い先生に呼びつけられて罰を与えられる覚悟を
している一止先生ですが、何と!!!逆に第四内科の班長に任命される
のでした。


「十人の飢えた子供がいる時、君の手元には一個のパンしかない。
その時君だったらどうするかね?
十等分して与えるかね?・・・そうすれば一人も助かるまい。
それとも、もっとも弱っている子にあたえるかね?
・・・私なら助かる見込みのない子にはパンを与えない。
・・・まだ余力のある子にも与えない。
答えは、今、そのパンに依って確実に今を生き延びられる子を選び出して
パンを与え明日に備える。」
この考えが大学病院の方針だと云うのです。
パンを、例えばベッドに置き換えて見ると、なるほどと思えませんか。