立夫文庫のブログ

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☆戦地でマラリアにやられ裸一貫の男が、億万の富を成したお話です。

           題名:花 の 嵐 上下巻(小説小佐野賢治)
   整理番号:E-10
            ジャンル:人伝         
            著者:清水一行
            出版社:角川文庫


内容・感想:
Do you know Kenzi Osano ?
云うなれば、第二次世界大戦後の混乱期に乗じて
財を為した、一時成金の男です。


僕らの世代では彼の名前は「ロッキード事件」を通じて
悪い印象として、記憶してしまっている。
(ロッキード事件については、ここでは解説している暇が
ないので、読者は図書館にでも行って勉強して下さい。)


従って、僕も彼のことを誤解しておりましたが、
この物語を読むうち、幾つもの点で感動させられました。


大変な、と言うか、人並はずれた努力家であることには、
凡人の追随をゆるさない男でした。
僕なんかも、自分を振り返ってみて、
彼のキャパシティーの大きさに脱帽します。


だってそうだヨ・・・  昭和二十年当時の、
戦後の混乱期の最中、一般庶民が衣食住の目先の物に
困窮して居るとき、役にも立たない高級リゾートホテルを、
立て続けに三つも買収してしまったんだから。


先ず、熱海ホテル…320万円、次に山中湖ホテル…120万円、
そして強羅ホテル470万円。


しかも、その間に、大洗在住の侠客、柴田暁山なる男から
100万円を、乞われるままに支払って、
得体の知れない物も買っております。


以上の金額をザッとトータルすると、1000万円です。
現在の価格が500倍として、50億円です。


弱冠16歳、郷里の山梨県勝沼を、身一つで後にした男が、
まだ当時28歳にしてこれだけの金を持っていたことも、
たいしたものだと思いますが、その持てる金の、
殆ど総てを使って役にも立ちそうにないホテルを
買ったところが凄いと思いません!


壊滅した日本の未来を見つめ、何が必要になってくるかと
いうことを、彼の進む分野である、運輸、観光の角度から考えて、
一丁、男の勝負に出た訳ですねェ。


ここで、二つばかり注釈を加えると、
前記の柴田暁山から買った物とは・・・
これがまた、蓋を開けてみたら素晴らしい宝の山でありました。


旧日本軍が、最後の本土決戦の為に備蓄していた
ガソリンやら衣料品やらが、500坪の倉庫に
ビッシリ詰まってたというんだから、
正に宝の山だったのです。


次に、弱冠28歳の男が何故1000万円の大金を
所持していたか・・・
これに関しては残念ながら、詳述されておりません。


当時の軍需省に深く食い込み、丁稚奉公で覚えた、
自動車部品の卸商として、恐らく軍部の連中と癒着しながら、
悪どく蓄財をしたものと思われます。


最後に小佐野と、うちのばあちゃん
(うちの女房の母親=1995年現在82歳)との関係を
少々記して、筆を置くこととしましょう。


戦後の混乱期、義母はある知人を経由して、
やみ物資を捌いていたことがありました。
それは主に糸へん関係の物で、
例えば大量のビロードなど舶来品でありました。
これらの物の出どころは、小佐野だったと云うことです。


話を色々と聴いてみると、どうも柴田暁山関係じゃなくて、
所有しているホテルからの横流し物資であったと思われます。


それはどう云う事かというと、前記の小佐野所有の
三つのホテルは、三つとも占領軍の指定施設にされたため、
経営も安定してたばかりか、必要物資の調達が
PD(占領軍調達要求書)により、特別調達庁から
どんどん引き出せたからだったようです。


従って余分に調達した繊維類が、義母の捌いたものと
思われます。
義母はやがて夫の復員を機に、この事から一切足を洗った由。
この辺の詳しいいきさつは、小説「上浜家の人々」
(C-09ジャンル=歴史)高野立夫著を参照されたし。